札幌市では、人と動物が幸せに暮らせる社会を目指して、平成27年(2015年)5月に「札幌市動物愛護管理基本構想」を策定しました。これは、現在の札幌市の動物愛護条例や新しい体制づくりの基礎となった重要な指針です。
なぜこの構想が必要だったのか、その背景には以下の課題がありました。
目次
基本構想が作られた3つの理由
1. 古い条例の限界
それまで使われていた条例(畜犬取締り及び野犬掃とう条例)は昭和46年に制定されたもので、40年以上が経過していました。当時は「犬を管理する・取り締まる」という側面が強く、近年の「動物愛護(命を守る)」や「動物の福祉」という考え方に十分に対応できていませんでした。
2. 猫に関する問題の深刻化
犬の収容数は減少傾向にありましたが、猫の収容・殺処分数は依然として多い状況でした。特に「飼い主のいない猫(野良猫)」への対策やルールが不明確であることが課題でした。
3. 多頭飼育崩壊や虐待の防止
一人で多くのペットを飼いきれなくなる「多頭飼育崩壊」や、虐待などの社会問題に対応するため、行政が早期に実態を把握し介入できる仕組みが必要とされていました。
「人と動物が共生する社会」を実現する3つの基本施策
この基本構想では、「人と動物が共生する社会の実現」を目標に掲げ、殺処分を限りなく減らし、最終的になくすことを目指しています。そのために掲げられた3つの柱(基本施策)を解説します。
1. 動物愛護精神の涵養(かんよう)
難しい言葉ですが、簡単に言うと「命を大切にする心を育てる」ことです。
ペットを飼っている人だけでなく、飼っていない人や子どもたちに対しても、動物の命の尊さを伝える教育や普及啓発を行います。
【具体的な取り組み】
・小学校や幼稚園での「どうぶつあいご教室」の開催・動物愛護フェスティバルなどのイベント実施・ボランティアや人材の育成
2. 動物の適正管理の推進
飼い主としての「責任」を果たすためのルール作りです。
動物が人や他の動物に迷惑をかけないよう、飼い主やペットショップなどの事業者に適正な管理を求めます。
【具体的な取り組み】
・マイクロチップ等による所有者明示の徹底・放し飼いの防止、フンの持ち帰りなどのマナー向上・狂犬病予防注射の接種率向上(構想策定時は約70%で推移)・多頭飼育の届出制度の検討
3. 動物の福祉向上
動物が心身ともに健康で快適に暮らせる「生活の質(QOL)」を守ることです。
特に、行政施設に収容された動物たちの環境改善が大きなテーマです。
【具体的な取り組み】
・シェルターメディスン(収容動物医療)の考え方の導入・収容動物への不妊去勢手術やトリミングの実施・譲渡されやすいように人慣れさせるトレーニング・虐待や遺棄に対する監視体制の強化
当時の札幌市の現状データと課題
基本構想が作られた2015年当時の札幌市のデータを見ると、どのような課題があったのかが浮き彫りになります。
犬と猫の収容・殺処分の状況(平成25年度時点)
構想策定時のデータでは、犬の殺処分は大幅に減少していましたが、猫の課題が大きいことがわかります。
【犬の状況】
・収容頭数:344頭・返還・譲渡数:342頭(生存率97.1%)・殺処分数:減少傾向にあり、ほぼ譲渡や返還ができている状態
【猫の状況】
・収容頭数:1,607頭・うち飼い主不明:1,153頭・殺処分数:764頭(生存率42.8%)
【課題の分析】
猫の殺処分数が犬に比べて多いのが特徴です。特に、離乳前の子猫の収容が多く、ケアが追いつかないことが課題でした。また、路上で死亡する猫の回収数も年間1,500頭(平成25年度)を超えており、殺処分数よりも多いという過酷な現状がありました。
市民の声(アンケート結果)
市民アンケートでは、ペットに関する困りごととして以下が多く挙げられていました。
・1位:フンの放置などによる不衛生(67.0%)・2位:庭などの敷地内にフンをされる(78.0% ※猫の被害として)・3位:鳴き声がうるさい(23.7%)
これらの市民の声を反映し、新しい条例では「マナーの向上」や「近隣トラブルの防止」が重要な要素として検討されました。
基本構想から実現したこと・これからのアクション
この基本構想に基づき、札幌市では具体的な変革が行われてきました。
1. 新しい条例の制定
古い「畜犬取締り条例」に代わり、動物愛護管理に関する条例の制定が進められました。これにより、以下のような対策が検討・実施されました。
・多頭飼育の届出制:多頭飼育崩壊を防ぐため、一定数以上飼う場合は行政への届出が必要に。
・手数料の有料化:安易な飼育放棄(引取り依頼)を防ぐため、引取り手数料の有料化が検討されました。
・飼い主のいない猫対策:無責任な餌やりへの対応などが盛り込まれました。
2. 動物愛護センターの機能強化
構想の中で「施設のあり方の検討」が掲げられ、名称の変更や機能の充実が計画されました。
以前は郊外(福移支所)にしかなかった機能を見直し、市民がアクセスしやすく、交流や学習ができる拠点の整備が目指されました。これが現在の札幌市動物愛護センター(あいクル)へとつながっています。
3. ボランティアとの協働
行政だけでは解決できない問題に対し、ボランティア団体との連携が強化されました。
・ボランティア譲渡:収容動物をボランティアが引き出し、新しい飼い主を探す活動(平成26年度時点で猫の譲渡の37%がボランティア経由)。
市民ができること
札幌市動物愛護管理基本構想は、行政だけで実現できるものではありません。私たち市民一人ひとりの協力が不可欠です。
構想実現のためのポイント
1. 適正飼育の徹底(室内飼育、不妊去勢手術、迷子対策)
2. マナーを守る(フンの持ち帰り、リードの着用)
3. 正しい知識を持つ(安易に飼わない、動物の習性を知る)
4. 共生の意識(動物が好きな人も嫌いな人も暮らせる街づくり)
この構想は、現在の札幌市の動物愛護の土台となっています。これからペットを迎える方も、現在飼っている方も、この「共生」の理念を心に留めて、愛犬・愛猫との暮らしを楽しんでください。
出所:札幌市「札幌市 動物愛護管理基本構想」
執筆:どうみんライフ